富士山は噴火するのか?

災害

私は静岡県東部で幼少期を過ごした。住んでいた家の2階の窓からバッチリ見えていた富士山の中腹には、宝永火口が大きく口を開けていて、それが私にとっての当たり前の富士山の姿だった。富士山は山頂の火口から、ドーン!と噴火するものだと思っていた私は、むしろ山腹や山裾での噴火の方が多かったと知って少しがっかりしたのを覚えている。
私が小学生の頃の教科書には、富士山は「休火山」と紹介されていて、実際その静かで美しい姿からして、もう噴火はしないのだろうと勝手に思っていた。しかし今の考え方では、概ね1万年以内に噴火した火山や、現在活動している火山を活火山と呼ぶそうで、現在では富士山や、かつては「死火山」扱いだった箱根山も24時間体制で監視されている。  

富士山の歴史 昔はよく噴火していた

富士山は今からおよそ10万年前に誕生したと考えられていて、日本の他の多くの火山のような数十万年前から100万年前と比べると、まだ若い火山だと言える。大きな噴火の度に噴出した火山灰で大きくなるその姿を大きく4段階に分けて古いほうから、先小御岳(せんこみたけ)火山、小御岳(こみたけ)火山、古富士(こふじ)火山、そして現在の姿、新富士(しんふじ)火山と呼ばれていて、4層構造になっている。新富士火山の活動開始からは、まだ1万7千年ほどしか経っていません。下の3層は基本的に新富士火山の下にあるのですが、小御岳火山の一部は角度により山中湖の方から、ちょこんと山腹に見える。
富士山と言えば、山頂にぽっかり空いた火口(お鉢)が印象的で、「大内院」と呼ばれるその直径は780m、深さが237mあり、八神峰と呼ばれる8つの峰に囲まれています。ちなみにその山頂火口からの噴火は、2800年前あたりが最後で、以降は山腹や山裾その周辺で起こっている。
富士山には、宝永山を代表とした側火山と呼ばれる火口が70以上もあり、山裾や山腹などいたるところから噴火している。次に富士山が噴火するときには、山頂火口や宝永火口からだけではなく、むしろどこからでも噴火する可能性があると思っていたほうがいい。
誕生から頻繁に噴火活動を繰り返してきた富士山が最後に噴火したのは1707年の宝永噴火で、以降、小規模な活動は見られるものの、もう300年以上噴火していない。いつ噴火活動が再開されてもおかしくない状況で、先の宝永噴火の被害状況を鑑みても首都圏に与える影響は計り知れないものがある。また宝永噴火の時のように、南海トラフ大地震と連動する可能性も大いにあるため、そうなった場合の最悪の状況を想定しておくことは、決して無駄ではないと言える。宝永噴火は、宝永地震の49日後に起きている。

宝永噴火に学ぼう

宝永大噴火は、江戸中期に起こっており、比較的多くの記録が残っている。噴火自体は、1707年12月16日から12月31日までの2週間以上続いた。溶岩の流下は見られず、噴火による直接的な死者も記録されていないが、その爆発的は噴火は、富士山の東側、関東一円に大量の火山灰を降らせている。その火山灰は、農作物に大きな影響を与え、噴火から20年経っても復興できない地域もあり、小田原藩はコメの収穫量が噴火前の状態に戻るまでに90年ほどかかっている。
江戸=東京の降灰は4cm、日によっては一日で6~9㎜ほど積もったらしい。これは、鹿児島市の一年間の平均降灰量の約1.7mmをはるかに超えるすさまじい量の火山灰が降ったことになる。実際、「砂(火山灰)が降って目や口が開けられない」という日もあったようで、そんな日は外出もままならなかっただろう。しかも火山灰は、ただの砂ではなく鋭くとがったガラス質の粒子なので、間違いなく目や気管支への影響はあったと思われる。今、これだけの火山灰が東京に降ったら、何が起こるか計り知れない。

宝永噴火の降灰分布図-内閣府防災のページ
出展:宝永噴火の降灰分布図-内閣府防災のページ

富士山の噴火予知は可能か

そんな絶対に噴火してほしくはない富士山の噴火の予兆をとらえて、何分後、何時間後、または何日後かの噴火を予測することはできるのだろうか。
日本の火山観測の技術レベルはトップクラスだが、その日本でも特に富士山は特別で、いくつもの低周波地震を観測するための地震計、監視カメラ、傾斜計、空振計により、24時間つねに地殻変動の観測が行われている。また、GNSS衛星とSAR衛星とで宇宙からミリ単位で山体の動きを監視している。
GNSSとは全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System)のことで、複数の衛星から電波を受け取るアンテナを地上に設置して、自分の位置を正確に把握するしくみで、原理としてはカーナビにも用いられているGPSと同じである。
SAR(synthetic aperture radar)とは、人工衛星や航空機にレーダーを搭載し、マイクロ波を発射して地表との距離を精密に測るシステムである。人工衛星や航空機は上空を移動するので、地面が動いた距離を何回も測定することが可能になる。したがって、火山の地面の動きが時間ごとにどう変化したか、すなわち地殻変動量を測定することができる。GNSS観測では地上の2点間の変位がわかるだけだったが、SARによる観測では、平面全体の変動をとらえることができる。
地表を線的に観測するGNSSと、面的に観測するSARを併用することによって、地殻変動の時間変化をより三次元的に把握できるようになった。
そんなガチガチに監視されている富士山だが、様々な変化は捉えられても、いつ、どこから、どんなタイプの噴火が、どれくらいの規模と期間で起こるのかを予測することは、まだ難しいようだ。
また、南海トラフなどの大地震と連動して起こるかもしれないとなると、明日かもしれないし数年先かもしれない、ということになる。

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